特定非営利活動法人ジャパンハート ファウンダー・最高顧問。1995年より国際協力医療活動をはじめ、ミャンマー・カンボジアなどで、これまで1万人以上の子どもたちに手術を行ってきた。


by japanheart
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

労働を奪われた時代-その2

突き詰めた緊張の後の完全なる弛緩は能力開発のための秘訣となる。
緊張状態の活動中は、おそらく様々な事柄が時系列にそって情報として脳に押し込まれていく。
脳内ではただ情報が無作為に分布したような状況になっている。
新しい情報は、活動を続けている間はひたすら脳内に押し込まれていく。

そしていったん休息に入ると、それらの情報は脳内で過去の情報と統合され、新しい意味付けが与えられながら整理されていく。
そうしてシナプスによって繋ぎ合わされた新しい情報群はさらなる可能性を私たちに与えてくれる。

e0046467_16115951.jpg

脳内に投入される情報が少なければ、でき上がる新しい情報群も少なくなる。よって獲得される能力、すなわち”脳力”は著しく低くなる。

十数年前にマイクロクレジットという概念でノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス博士(バングラデシュ)と対談した時に「これからは皆さん社会起業家として起業することを推奨します」と言っていたが、おそらく私は彼とは別の意味で皆さんに何がしかの起業家としての生き方を推奨したい。

なぜなら、今言われている労働時間の短縮によって、あるいは今後起こるであろう人工知能の発達によって、我々人類は著しい緊張状態を持つための絶好の機会となる”労働”を奪われてしまうからだ。
 一日数時間程度の労働時間と残りの優雅な弛緩時間の組み合わせは脳力開発のためには極めて不利な状態だと思っている。
 だから、起業することによって社会的労働時間の制限から解放され、自分の中で労働量を調節できるようにするしか方法がない。
雇われの身分では一日数時間程度の労働量しか法的に持てなくなる時代になってしまった。
 ここで一つ大切なポイントに触れておかねばならないだろう。
それは、もう一度、前回のお釈迦の話を思い出してもらいたい。
お釈迦は長い時間、難行苦行をした。
一カ月以上の断食もした。
これが成し遂げられた秘訣は、お釈迦はあくまでも自己の意志でそれを成したということだ。
他人や社会から強制されてやらされたわけではないということ。
人は社会や他人から極度の強制や緊張を長時間押し付けられると心が持たない。

このポイントに注意しながら、緊張状態を将来どのように自己の人生の中に持ち込むかを人は考えねばならない時代がやってくる。

我々人類の数十年先の姿を想像する。
人類はきっとミャンマーの僧侶達のような日常を過ごしているのではないかと思っている。
彼らは本来、戒律によって自分の袈裟以外の所有物は持ってはいけないことになっている。現実は様々な人がいるのでそうはなっていない僧侶がほとんどだろうか?
彼らはお経を上げ、瞑想をし、経典を学び、時に肉体労働を行う。
生きるための糧は、人々が恵んでくれる。
ただひたすら生涯にわたって悟りを目指しそれを繰り返すというのが本来のあるべき姿なのだ。

食べ物を手に入れるための労働からほとんど解放され、多くの自由な時間を手に入れた未来の人類は、自己啓発のために瞑想やヨガを行い、哲学や様々なリベラルアーツを学び、日常を生きることになるのだろう。
世界中のパワースポットはきっと瞑想をする人であふれていることだろう。
人々は便利さよりも不自由さを求め、人工的な環境よりも自然の中で過ごしたいと願っている。

e0046467_16123969.jpg

人類の意識はきっとその時代に合った進歩をとげていると思う。
それでも現在の人類よりも深い人生の洞察があるかと言われれば、きっと今の人類の方がその力を持っている人が多いのかもしれない。
 1000年前の人類に比べて今の人類の方が洞察力があるのかと言われれば、どうなのだろうか?
紀元前に生まれたお釈迦やキリストの様な存在は今、生まれているのだろうか?
1000年近く前の親鸞や日蓮の様な先哲たちや江戸時代の武道の達人の様なレベルに達する身体能力や人間性を開発する人が未来の方が多いと言えるのだろうか?

 かつては生きていること自体が緊張状態を突きつけられることだった。
未来は緊張状態を自らが演出しなければ持てなくなる。
より自己と向き合う時代に突入するのだ。
だから私は大変な時代になるなと思ってしまう。
人間は皆、自分に甘い。
社会や他人に強制されないとなかなか物事を前に進めることも難しい。

しかし、労働から解放されるその時代は、甘い自分を説き伏せながら自らが緊張状態を作り出さなければ、脳力開発のスピードが落ちてしまう。

瞑想をはじめとする弛緩だけでは脳力開発は進まない。
どんなにパワースポットが人であふれても人類の意識は進化しない。

私たちはお釈迦やキリストや親鸞や日蓮、あるいは武道や茶道の達人達は皆、大変な苦難を背負った人たちだったということを知っておかねばならない。

e0046467_16125782.jpg

by japanheart | 2019-03-20 05:07 | 随想 | Comments(0)