特定非営利活動法人ジャパンハート ファウンダー・最高顧問。1995年より国際協力医療活動をはじめ、ミャンマー・カンボジアなどで、これまで1万人以上の子どもたちに手術を行ってきた。


by japanheart
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死と隣り合わせの医療

死と隣り合わせの医療

 先日、手術中に子どもが死にかけた。
 麻酔薬を打ち込んだ後、呼吸が停止。
 
 慌ててマスクとバッグで換気する。もちろん私が術者だったが、わざわざ手術を中断して自ら呼吸換気を行った。
 数十秒後、一旦、呼吸が安定し、若い医師たちにバトンタッチ。
 
 替わって3分、再び呼吸が悪化。
 手術に戻っていたが、再び呼吸換気をする羽目に。
 しかし、今度は換気が上手くいかない。
 酸素濃度がどんどん低下する、緊急的に気管にチューブ挿管しようとするが、ここでトラブル発生。
 気温が高いため、プラスチックのような素材でできているチューブはフニャフニャになり、すぐに折れ曲がり、
 気管に入っていかない。どんどん酸素が低下し、とうとうゼロに。
 
 死ぬかもしれない!というこころココエを消しながら、再び気を取り直して、挿管を試みる。
 ところが今度は気管の入り口の声門が閉まり、完全に気道が閉塞した。
 マジで死ぬ!ココロの声が大きくなる。
 
 いきなり術野にあったメスを握りしめ私は、子どもの喉をかききった。
 吹き出す血を、よそに気管に向かってどんどん進む。
 子どもの酸素はゼロを指したままになって一体、どのくらいたつのだろうか?
 1分、2分??
 気管に直接糸をかけ、引っ張り上げる。そこにメスで穴を開けた。大量の血液混じりの唾液が吹き出す。
 そこに気管切開用のチューブを挿入。
 一気に呼吸が再会する。
 みるみる子どもの顔色が良くなってゆく。
 この間、約3分。
 しかし、長く感じた時間だった。

 助かったかも?またココロの声がする。
 マジで死んだと思った!少し安心したココロがつぶやく。
 
 再び術野に戻り、手術を再開する。
 さらにスピードアップして手術を終わる。

 術後、発熱はあったが子どもはしっかり意識を取り戻し、元気にしていた。

 昨日、日本に帰っている私に連絡が。
 本日、無事、子どもが退院しました、と。

 医療をやっていると、こんな経験は何度かする。
 特に、私のいる場所はこの数が多い。

 そのたびに、私は医者を辞めたくなる。
 
 人間は愚かな生き物か、昔のことはすぐに忘れる。
 忘れてまた同じ過ちをする。

 こんな恐ろしい物語を、何度も多くの医療者に言って聞かせるが、皆ふんふんと聞いている。
 多分、分かってないな、と思いながらそれでも話す。

 人間は自分で経験するしかない。
 
 しかし、このような経験が多く過ぎると、何だかトラウマにもなってくれない。

 それでも医者を続けてゆく。

 医者とはかくも因果な商売。
 
 何で医者になってしまったのだろう?かとココロの声がする。
 

 
 
 
by japanheart | 2012-06-13 10:52 | 活動記録