脳瘤という病気の経験
2011年 12月 18日
東南アジアには脳瘤という生まれつきの病気が、多くある。
日本ではまずみられないような病気である。
ということは、この病気の治療を行った経験のある医者がほとんどいない。
もしもあったとしても、多分生涯でたったひとりだけであろうか。
日本では脳外科が担当することになろうか。
この病気の治療を現地でもう数十人に行ってきた。
いわゆる完璧な、理想といわれるような手術はミャンマーでは難しいが、私なりに工夫して何とか術式というのが形が決まりつつある。
ところが最近、手術後に時々、嘔吐や痙攣を起こす子が出てきた。
頭の骨のちょうど眉間のあたりに大きな穴が空き、皮膚の下まで、そこから脳の一部が出たり、髄液という脳を循環している液体がたまったりしているのだが、これを頭の骨膜をはがし、反転させて穴をふさぐというやり方をする。それでも普通の人は穴がないわけだから、普通に比べて数cc程度から多くても30ccくらいは頭の中の容積が多いことになる。多ければ少しは余裕がありそうなものだが、痙攣や嘔吐や時に意識が少し悪くもなる。
これらの子どもは普通の子どもより、脳の圧が高いのだろうか?
ふさいだ子どもの中に上のような症状が出る子どもがいる。
そこで、塞いだ骨膜に、針で穴を開ける。
穴を開けると、髄液が外へしみ出す。
そうすると驚くくらい症状が改善する。
たった数ccの量の違いの世界で、劇的に症状が変わる。
前回手術した子どもの報告が、現地から、毎日入る。
日本で予定がいっぱいの私はそう簡単に動けない毎日。
いつもやきもきしながら、報告をよんだ後は、落ち着かない。
私という人間がぜったい必要というわけではなかろうが、自分が行かなければならないような気がする。
そういう習性が身についているのかもしれない。
医者というのは、医療者というのは、患者の様態が悪ければ、どこにいても、意識をそこから外してはいけない。
遠くに離れていても自分に何ができるのか?
私もそれを自問している。
そこがプロとしての、最低ラインかもしれない。