患者たちの午後
2011年 01月 25日
カンボジアの13歳の甲状腺ガンの女の子が来日する。
1年半ほど前、この子にカンボジアではじめて出会った。
もう少し幼い頃、現地の病院で診てもらっていたが、治療不能ということで治療をあきらめていた。
やはり私も、海外では同様に打つ手は既になかった。
甲状腺の手術はできても、既に肺に転移してしまったガンには、手の施しようがない。
あきらめるしかなかった。
私たちの活動のひとつに、スマイルースマイルプロジェクトというのがある。
ガンの子どもたちやその家族に少しでも元気を持ってもらおうという企画だ。
どうせ治せないなら、せめて人より、多分、その短い人生をの中を、すこしでもいい思い出を持ってもらいたいと思った。
もしかしたら、この子が病床に横たわり動けなくなったときでさえ、そのとっておきの思い出があれば、家族もこの子も、その思い出の話をする間だけは、幸せな気持ちになれるのだろうと思っている。
子どもを福岡の新日本製薬の支援で、昨年の9月頃、日本に連れてくることができた。
そして楽しい時間を数日過ごした。
せめていい思い出をつくってほしいとそう思っていた。
そして最後に、母親がスタッフにこう言ったらしい。
「いつもこの病気があって、娘はいつも不安がり、沈んでいた。こんなに幸せそうな娘の顔を久しぶりに見れて、私も幸せです。」
それを聞いて私は思った。
そりゃそうだろうな、と。
いい思い出もいいけど、やっぱり病気が治ることが一番に決まっている。
親だったらそう思うに違いない。
そう思った瞬間に、治療したくなった。
むかし、小児外科を日本でしていた頃、上司が全く同じような甲状腺ガンの子どもを治療していて、肺転移が、ある治療ですっかりコントロールされ消えてしまった話をしていたことを突然思い出した。
もしかしたら、治るかも?
ふと、そう思った。
それから、3ヶ月後の、この1月、現地カンボジアで、日本から小児外科・甲状腺外科の混成チームを派遣し、5時間に及ぶ甲状腺腫瘍の摘出術をした。
そして、いよいよ次の治療のために本日、日本にこの子が来日する。
約10日間の滞在で放射線を使った治療を行う。
岡山の国立医療センターで、治療を行う予定だ。
助かるか助からないかは、全く分からない。
でもやってみる価値はある、と思わない?