本当の意志
2007年 10月 08日
人は自分の本当の意志というものをなかなか悟る機会がないものだと思う。
今回、危険が近づきつつあると思われる頃、少なからず私たちの中にも動揺があった。
私たちは医療という人道支援の団体なので、こういう時こそ必要になると私は考えている。
しかし、現実は身に危険が迫ると人はなかなか勇気を振り絞ることが出来ない。
私は組織の長として、派遣者たちの身の安全を第一に考える必要がある。
そして順次、派遣者を撤収させていく段取りを決め始めていた。
最終的には私を含め3名のスタッフを残す。
私、大村先生、下平看護師。
私は日本での講演会があるためどうしても数日は帰国せねばならない。
後はビザの残り期限を考慮し約15名のスタッフを日本に返す準備に入った。
病院には多くの術後の患者たちがいた。
帰国メンバーの松尾看護師たちと話し合った。彼女たちは、このまま患者たちを置いてゆけないと言った。患者たちがいつ日本に帰るとしきりに聞いてくるらしい。中には不安から泣いている患者もいる。そして彼女たちはそこに残ることになった。様々な状況も考慮し、私もそれを許可した。「この人たちを置いてゆくわけには行かない。」と彼女が言った。
この時が組織のひとつの分水嶺となった。
今迄で一番のピンチだったかもしれない。
普段は耳障りがいい事を言っていても、いざという時に本当に自分が何を考え、決断するかが分る。今回の件はそのような機会であった。
多くの人たちはここを撤収していく中、私たちの組織は残れた。
私たちのところでは情報が殆ど遮られ、大きくなった噂だけが手元に届く。
その情報を、元に判断をしてゆかねばならない。
実際の現場を見ている人よりももしかしたら、情報が寸断されているだけ、あるいは特定の衝撃的情報だけがやってくる分、大きな恐怖感に包まれていたように思う。
自分で情報を集め、整理し、そして事に望んでいた。
いつも美しく生きたいと思っている。
逃げ出さなくて良かった、と多くの派遣者たちは思ったに違いない。
今現場は安心した患者たちの笑顔で包まれている。