ジャパンハートの代表。1995年より国際協力医療活動をはじめ、ミャンマー・カンボジアなどで、これまで1万人以上の子どもたちに手術を行ってきた。


by japanheart
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何も知らないということ

何も知らないということ

今日、外来に2歳の男の子が母親に連れられてやってきた。1月以上前からお腹が膨れていたらしい。
診察してみると、左の上腹部に大きな固まりを触れる。

超音波をしてみる。かつて日本で小児医療に関わっていたころに見たことがあるエコー像だった。
おそらく、WILM'S 腫瘍に間違いないだろう。子どもに多い腎臓からでる悪性の腫瘍のことだ。生存率はけして良くない。特に今回のような場合には手術だけで助かることは少ないと思う。
私の手元には抗がん剤はない。あっても外国人の私には使わせてもらえないだろう。

仕方なく、大都市の小児病院に行くように紹介状を書いた。いつものむなしい作業だ。
書いてもお金の問題から行かない人が多い。行ってもお金が足りなくなってやがて村に帰っていく。
この子は村の子。親の身なりも貧しい。

手術をしても再発してくる可能性が大きいのなら、本気で治療するか、何もしないかのどちらかが良いと今は考えている。運命は何もしないという方向に傾いている。

この子も親も病気のことは何も知らない。ただお腹に固まりがあるとだけ説明した。
この国でがんであると宣告することは、全ての可能性を否定することと同義だ。
この子はもちろん、親も誰も何も知らない。
帰り際、子どもが母親の背中に抱きつき、とても心地良さそうに顔をうずくめている。
背中と子どものお腹がしっかりとくっつきこの親子の絆を見るようで幸せだった。
あと少ししかこの親子には、この時間は残されていない。

そして、私だけが今、この子の未来を少しだけ分っている。
Commented by クーデルムーデル at 2006-09-01 09:15 x
はじめまして。私は成田にほど近い、とある病院に勤務する小児科医です。
悪性腫瘍の子供達に対する治療は大学にいるころ嫌と言うほど関わってきました。その時生存率がいくら低くても立ち向かおうとするご両親と治療を嫌がり家へ帰りたいと泣き叫ぶ子供達を見てきました。
きっと治す術がお金をかければあるというのなら、どこの世界の親でもなんとかしてやりたいでしょうし、できない悔しさ・みじめさ・そして子供への申し訳なさは計り知れないでしょう。
同時に最後まで治療したくてもできない先生のいらだちもいかばかりかとお察し致します。

何も出来ませんが、先生の活動を応援しつつ、日本の子供達の健康のために働かせて頂きます。
Commented by japanheart at 2006-09-05 22:40
最近は、実はもっと心がシンプルになっています。死と生はともに認める。いまだに生のほうに偏ってはいますが、死も生の側面であり、生は死の一側面であるという意識です。多くの生死を一方的に受け取るうちにそう感じるようになっています。治療するのが医師の役目なのかもしれませんが、ここでは見送るのもまた大きな役目のような気がします。
Commented at 2006-09-10 19:27 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by japanheart at 2006-09-13 23:54
どうせ取るならば正看護師の資格をおとり下さい。私が無謀にも医師を目指した時、親をはじめ、だれも理解してくれませんでした。それほどにその頃の私は、勉強から程遠いところにいましたから。
それでも、自分の人生だから自分で責任を取る、という想いでやってきて、今ここにいます。そして少なくとも多くの人たちが私の医療の提供を喜んでくれています。
人は自分のセルフイメージに向かって近づきます。
どうせならば高い方がいいですよ。それはより自分の可能性を信じるということですから。
Commented by ゆき at 2006-09-15 09:53 x
心強いコメントありがとうございます。考えて見ます。今後とも皆様の活躍を励みにしながら努力します。
by japanheart | 2006-08-23 23:19 | 子どものこと | Comments(5)